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例題集 / 化学 / 物理化学 / 化学熱力学

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難易度

体積変化に伴う仕事

知識・記憶レベル   難易度:
ピストンとシリンダーからなる容器にn [mol] の気体を入れ, 一定温度に保った恒温槽中で準静的(可逆的)に体積をV1 [dm3] からV2[dm3] まで膨張させた. 次のそれぞれの場合に, 仕事(W)を与える式を示せ.
(1) 理想気体の場合
(2) ファンデルワールスの状態方程式に従う気体の場合

解答例・解説

【方針】
  • 温度がT [K]である気体n [mol] の体積がV [dm3] のとき, 気圧P [atm]は
    (1) 理想気体の場合は P=nRTV (R [dm3atm K1mol1]は気体定数)
    (2) ファンデルワースの状態方程式に従う気体の場合は P=nRTVnban2V2 (a,b は定数)
    に従う.

  • 外界の圧力をPex とすると, 体積がV1からV2に変化することに伴う仕事WW=V2V1PexdV で与えられる. 準静的 (可逆的) 状態変化では, 外界の圧力 Pexは系 (気体) の圧力Pに等しい. したがって, W=V2V1PdV となる. この定積分を計算する.

    【解答】
    (1) P=nRTV となり, R は定数, n,T は一定であるので, PV の1変数関数と考えられる.
    W=V2V1nRTVdV=nRTV2V11VdV=nRT[ln|V|]V2V1=nRT(lnV2lnV1)=nRTlnV2V1

    (2) P=nRTVnban2V2 となり, a,b,R は定数, n,T は一定であるので, PV の1変数関数と考えられる. W=V2V1(nRTVnban2V2)dV=[nRTln|Vnb|+an2V]V2V1=nRT{ln|V2nb|ln|V1nb|}an2(1V21V1)=nRTln|V2nbV1nb|an2(1V21V1)

    【注意】
  • logex=lnx と書く. (自然対数)

  • lnMlnN=lnMN (対数の性質)

  • 1xdx=ln|x|+C, 1x2dx=1x+C (不定積分の公式)

  • F(x)=f(x) のとき, baf(x)dx=[F(x)]ba=F(b)F(a) (定積分)
  • 温度変化に伴うエンタルピー変化と内部エネルギー変化

    知識・記憶レベル   難易度:
    n [mol]の理想気体を準静的(可逆的)に加熱することで, 温度を T1 [K]から T2 [K] に昇温した. エンタルピー変化 ΔH と内部エネルギー変化 ΔU を与える式を示せ. ただし, 定圧モル熱容量 CP,m は, CP,m=a+bT  [JK1mol1](a,b は定数)(1) で与えられるとする.

    解答例・解説

  • T1からT2への温度変化に伴うn [mol] の気体のエンタルピー変化は ΔH=T2T1nCP,mdT であるので, (1) を代入して, ΔH=T2T1n(a+bT)dT=na[T]T2T1+nb[12T2]T2T1=na(T2T1)+nb2(T22T21)
    となる.

  • 定積モル熱容量を CV,m とすると, T1からT2への温度変化に伴うn [mol] の気体の 内部エネルギー変化は ΔU=T2T1nCV,mdT(2) となる.
    一方, 理想気体では, CP,mCV,m=R(Rは気体定数) が成り立つ. (これをマイヤーの関係式 という.) マイヤーの関係式と (1) から, CV,m=CP,mR=a+bTR となるので, (2)に代入すると,
    ΔU=T2T1n(a+bTR)dT=n(aR)[T]T2T1+nb[12T2]T2T1=n(aR)(T2T1)+nb2(T22T21)
    となる.

    [ΔU を求める別解]
    Pを気圧, Vを気体の体積, Uを気体の内部エネルギーとする. エンタルピー H は, H=U+PV と定義され, ΔH=ΔU+Δ(PV) が成り立つ.

    一方, 理想気体では PV=nRT が成り立つ. n,R は定数であるので, エンタルピーの定義式から, ΔH=ΔU+Δ(PV)=ΔU+Δ(nRT)=ΔU+nRΔT=ΔU+nR(T2T1) が成り立つ. したがって,
    ΔU=ΔHnR(T2T1)=na(T2T1)+nb2(T22T21)nR(T2T1)=n(aR)(T2T1)+nb2(T22T21)
    が成り立つ.

    【注意】
  • 積分公式 dx=x+C, xdx=12x2+C を使っている.
  • ファンデルワースの状態方程式を用いた臨界温度,臨界体積,臨界圧力の導出

    知識・記憶レベル   難易度:
    ファンデルワールスの状態方程式を用いて, 臨界温度 TC [K], 臨界圧力 PC [atm], 臨界体積 VC [dm3] を与える式を導け.

    解答例・解説

    温度がT [K]である気体n [mol] の体積がV [dm3] のとき, 気圧P [atm]は, ファンデルワールスの状態方程式に従う場合は, P=nRTVnban2V2(a,b は定数) となる. ここで, n,R も定数で, PV,T の2変数関数となっている.

    (PV)T=(2PV2)T=0 を満たす T,V の値を, それぞれ臨界温度, 臨界体積といい, そのときのPの値を臨界圧力という.

    P=nRTVnban2V2=nRT(Vnb)1an2V2Vについての第2次偏導関数を求めると, (PV)T=nRT(Vnb)2+2an2V3=nRT(Vnb)2+2an2V3 (2PV2)T=2nRT(Vnb)36an2V4=2nRT(Vnb)36an2V4 となる. そこで, (PV)T=(2PV2)T=0 を満たす T,V を求める.
    {nRT(Vnb)2+2an2V3=0(1)2nRT(Vnb)36an2V4=0(2) とすると, (1)×2+(2)×(Vnb) より, 4an2V3=6an2(Vnb)V4 Vについて解くと, V=3nb となる.
    (1) に代入すると, nRT(2nb)2+2an2(3nb)3=0 であるから, T について解くと, T=8a27bR となる.
    このとき, P=nR2nb8a27bRan2(3nb)2=a27b2 となる. したがって, 臨界体積は VC=3nb, 臨界温度は TC=8a27bR, 臨界圧力はPC=a27b2 である.

    【注意】
  • 2変数関数F(x,y) において, yを定数としてxについて偏微分した偏導関数を (Fx)y, xを定数としてyについて偏微分した偏導関数を (Fy)x と表す.

  • 微分公式 (xp)=pxp1 (pは任意の実数) を使っている.
  • マックスウェルの関係式の導出

    知識・記憶レベル   難易度:
    閉じた系において, ギブスエネルギー G の微小変化 dG は, Sをエントロピー, T [K]を絶対温度, V [dm3]を体積, P [atm]を圧力として, dG=SdT+VdP(1) で与えられる. 式 (1) から, マックスウェルの関係式と呼ばれる次の式を導け. (SP)T=(VT)P

    解答例・解説

  • 閉じた系においては, 物質の出入りがないので, 気体のモル数は変化しない.

  • G=G(T,P) は, 絶対温度T と圧力P の2変数関数と考える. このように, 系の状態だけで決まる量を状態量という.

  • 2変数関数F=F(x,y) が偏微分可能で, 偏導関数 (Fx)y, (Fy)x がともに連続であるとき, dF=(Fx)ydx+(Fy)xdyF全微分 という. G=G(T,P) は, 全微分が与えられる条件を満たすと考える.

  • 2変数関数 F=F(x,y) の第2次偏導関数 (y(Fx)y)x, (x(Fy)x)y が存在してともに連続であるとき, 等式 (y(Fx)y)x=(x(Fy)x)y が成り立つ. G=G(T,P) は, この等式が成り立つ条件を満たすと考える.

    以上をもとにして考える.

    G=G(T,P) の全微分をとると, dG=(GT)PdT+(GP)TdP(2)
    (1), (2) を比較すると, S=(GT)P,V=(GP)T したがって, (SP)T=(P(GT)P)T(3) (VT)P=(T(GP)T)P(4) が成り立つ. ここで, (P(GT)P)T=(T(GP)T)P であるから, (3), (4) により, (SP)T=(VT)P となる.

    【注意】
  • 2変数関数F(x,y) において, yを定数としてxについて偏微分した偏導関数を (Fx)y, xを定数としてyについて偏微分した偏導関数を (Fy)x と表す.
  • クラペイロン-クラウジウスの式から導出された気-液平衡式

    知識・記憶レベル   難易度:
    P [atm] を圧力, T [K] を絶対温度とし, ΔH [kJmol1], ΔV [dm3mol1]をそれぞれ相転移に伴うエンタルピー変化と体積変化とする. dPdT=ΔHTΔV(1)クラペイロン-クラウジウスの式 という.
    大気圧下における液体の沸点を Tb, Tb における蒸気圧をP0として, 気相-液相の平衡に対する理想気体のクラペイロン-クラウジウスの式を導け. ただし, 液体のモル体積 Vlは, 気体のモル体積 Vgよりも小さく無視できるものとし, モル蒸発熱ΔHVは温度によって変化しないとする.

    解答例・解説

    気相-液相の相平衡においては, ΔH はモル蒸発熱 ΔHV に対応し, ΔV は気体のモル体積 Vgから液体のモル体積 Vlを引いた体積の変化量 VgVl となる. ここでは, VlVg よりも小さく無視できるとするので, ΔV=Vg と考える. また, ΔHΔHVは定数と考える.

    1[mol]の理想気体においては, Vg=RTP となるので, (1) より, dPdT=ΔHVTVg=ΔHVTRTP=ΔHVPRT2 初期条件「T=Tb のとき P=P0」のもとで,微分方程式 dPdT=ΔHVPRT2 を解く. 変数を分離し, 積分すると, 1PdP=ΔHVRT2dT PP01PdP=TTbΔHVRT2dT [ln|P|]PP0=[ΔHVRT]TTb lnPlnP0=ΔHVRT+ΔHVRTb
    したがって, lnPP0=ΔHVR(1T1Tb) を得る. この式は状態図 (相図) の気-液曲線における圧力と温度の関係を表している.

    【注意】
  • 変数分離形の1階微分方程式 dydx=f(x)g(y)dyg(y)=f(x)dx と変形して両辺を積分する. 初期条件「x=x0 のとき, y=y0」が与えられたときは, yy0dyg(y)=xx0f(x)dx と定積分すると特殊解が得られる.

  • dxx=ln|x|+C, dxx2=1x+C (積分公式)

  • lnMlnN=lnMN (対数の性質)